レポートサンプル:カルシウム不足を是正する必要性が、科学的根拠に基づいた健康的な食を社会へ届ける

エビデンスの現状とそれに基づく回答

サマリー

カルシウム摂取は、大腸がんと脳卒中のリスクを低下させるという強いエビデンスが日本人を含めて揃っている。骨折・骨粗鬆症との関連については、介入研究も含めて十分揃っている状況ではないが、カルシウムが骨の主成分であることを考えると、摂取量の増加は骨密度の増加、骨折予防に資することが期待される。一方、過剰な摂取は、前立腺がんや虚血性心疾患リスクを上げる可能性があるが、日本人のエビデンスは不足している。総死亡リスクに対する国際的エビデンスなどから総合的に考慮すると、1日当たり800mg程度迄は、摂れば摂るほど健康に資することが示唆される。日本人のカルシウム摂取量は、国際的にも低く、成人平均500mg弱である現状からは、ポピュレーション・アプローチとしてのカルシム摂取量の増加が望まれる。日本人は、牛乳・乳製品から30%近くのカルシウムが摂取されているが、牛乳は欧米主要国の3分の1,チーズは15分の1と少ない現状を考慮すると、牛乳・チーズの普及が鍵となるが、日本人の食文化からは、大豆や野菜、魚介類などからの摂取を更に増やすことも現実的と思われる。また、サプリメントによるカルシウム摂取も、血圧低下、大腸がん予防、前立腺がんリスクを上げないなどのエビデンスからは、食品のみからカルシウム800 mgを摂取することが困難な場合には、食品への添加やサプリメントによる補完的摂取を検討する余地がある

カルシウム摂取と健康

死亡との関連

国際的エビデンスの現状

食事からのカルシウムと死亡リスクとの関連を検討したコホート研究のメタ解析1では 、総死亡リスクについては、900mg迄はリスクが低下し、それ以上は横ばいからやや増加傾向が示されている(図:カルシウムと摂取と総死亡リスク)。この研究では、地域による層別解析が実施されているが、総死亡との関連は、欧州3研究:0.85(0.68-1.06)、アジア2研究:0.80(0.52-1.23)であり、明らかな差異は認められていない。

図:カルシウムと摂取と総死亡リスク

がんとの関連

国際的エビデンスの現状

Word Cancer Research Fund International(WCRFI)では、“食物・栄養・身体活動とがん”との関連について因果関係評価を継続的に実施し公表している(https://www.wcrf.org/research-policy/global-cancer-update-programme/)。その第三次報告書2においては、食事由来のカルシウムやカルシウム・サプリメントについて評価されている。

大腸がんとの関連については、13のコホート研究の内11の研究で、食事由来のカルシウム摂取200mg増加すると相対リスクが低下することが示され、用量反応メタ解析により、200mg当たり0.94(95%信頼区間:0.93-0.96)と推計されている(図:カルシウム摂取と大腸がん)。男女別、結腸・直腸別の層別解析においても、200mg当たり0.93-0.94と同様な結果であったが、直腸においては、統計学的有意差はなかった(0.94、0.86-1.02)。更に、10のコホート研究を統合したプール解析においては、食事由来のカルシウム摂取が、最も少ない5分位グループと比較して、最も多いグループでは、大腸がんリスクが14%(0.86:0.78-0.95)低下することが報告されている 。

メカニズムの考察

カルシウムが骨折を予防するメカニズムとしては、以下の点が考えられる。

  • 骨密度の維持(構造材としての役割):骨の約70%はカルシウムなどのミネラル(リン酸カルシウム等)で構成されている。十分なカルシウム摂取は、骨の「中身」を詰まった状態にし、外部からの衝撃に対する物理的な強度を担保する。
  • 骨吸収の抑制(リサイクルの制御):血液中のカルシウム濃度が下がると、体は生命維持のために骨を溶かして血液中にカルシウムを補給しようとする(骨吸収)。カルシウムを十分に摂取することでこの反応を抑え、骨がスカスカになるのを防ぐ。
  • 骨の質(骨質)の改善:カルシウムは骨の再構築を正常に保つ。適切なターンオーバーが行われることで、古い脆い骨が新しい弾力のある骨に置き換わり、折れにくい骨質が維持される。
  • 骨密度の維持(構造材としての役割):骨の約70%はカルシウムなどのミネラル(リン酸カルシウム等)で構成されている。十分なカルシウム摂取は、骨の「中身」を詰まった状態にし、外部からの衝撃に対する物理的な強度を担保する。
  • 骨吸収の抑制(リサイクルの制御):血液中のカルシウム濃度が下がると、体は生命維持のために骨を溶かして血液中にカルシウムを補給しようとする(骨吸収)。カルシウムを十分に摂取することでこの反応を抑え、骨がスカスカになるのを防ぐ。
  • 骨の質(骨質)の改善:カルシウムは骨の再構築を正常に保つ。適切なターンオーバーが行われることで、古い脆い骨が新しい弾力のある骨に置き換わり、折れにくい骨質が維持される。

なお、骨折予防においては、カルシウムの吸収や骨への沈着を助けるビタミンDや骨への沈着に必要なたんぱく質であるオステオカルシンの活性化に関与するビタミンKなどが必須とされている。

テスト

日本人のカルシム摂取量

現状と動向

2023年度の国民健康・栄養調査によると、日本人の平均カルシウム摂取量は489mg(男性:499、女性:480)であった。年齢階級別に見ると、学校給食が提供される義務教育年齢に該当する7~14歳で624mgと突出して高く、15歳以降で低下し、平均500mgを下回るが、60歳以降で500mgを超える(図:日本人のカルシウム摂取量)。食事摂取基準2025によるカルシウム摂取の推奨量は、12~14歳で最も多い(男性:1000mg、女性:800mg)が、成人では男性750mg、女性650mgとされているが、いずれの年齢でも、平均摂取量が推奨量を大きく下回っている。

2023年度の国民健康・栄養調査によると成人のカルシウム平均摂取量は482 mgであるが、寄与率のベスト5は、牛乳(14%)、発酵乳・乳酸菌飲料(7.2%)、豆腐(5.4%)、その他緑黄色野菜(4.8%)、チーズ(4.6%)の順である(図:日本人のカルシウムの摂取源(20歳以上))。その他乳製品(2.7%)を加えると、牛乳・乳製品が30%近くを占める主要なカルシムの摂取源である。野菜類、豆類、穀類、魚介類からも摂取されているが、その割合は比較的小さい。

日本人のカルシウム摂取量は、1950年以前は300mg未満、その後、増加し1970年代に入り550mg迄増加したが、その後は、横ばいからやや減少傾向にある(図:日本人のカルシウム摂取量の年次推移)。1990年代半ば以降は、いずれの年齢においても減少傾向にあるが、乳製品からのカルシウム摂取量は増加傾向にある(図:日本人の摂取源別カルシウム摂取量(mg/日)の年次推移)。

国際的位置づけ

日本以外のG7各国のカルシウム摂取量の中央値は、2018年においては、最も低いイタリアでも711mgで最も多いドイツは1000mgであり、日本の512mgの2倍近くある(Global Dietary Database https://www.globaldietarydatabase.org/data-download)(図:カルシウム摂取量の国際比較(G20))。G20のカルシウム摂取量を見ると、欧米が多く、南米、中東が続き、アジア各国は低いが、日本は、中国、韓国、インドよりはやや高い。1990年のデータで134mgと突出して低かった中国が、2018年には425mgと3倍に増加しているのが特徴的である。日本人のカルシウム摂取量が低い要因としては、カルシウムの主要摂取源である牛乳(英国・カナダ・米国・フランスの中央値200gに対して約3分の1の76g)やチーズ(英国・フランス・米国・カナダの中央値30-40gに対して約15-20分の1の2.1g)の摂取量が低いことに起因している。

エビデンスの現状に基づく推奨

  • 日本人の健康寿命短縮に影響が大きい脳卒中リスクが、日本人カルシウム摂取分布範囲内において多ければ多いほど低下する強いエビデンス
  • 日本人のがん死亡第2位の大腸がんリスクが低下する(前立腺がんリスクは増加する)可能性のエビデンス
  • 日本人の健康寿命短縮に影響が大きい骨折リスクが、日本人のカルシウム摂取分布範囲内においては、多ければ多いほど低下する可能性のエビデンス
  • 国際的な摂取範囲内で、900~1000mg程度までは総死亡 リスクや心血管疾患リスクが低下するエビデンス
  • 日本人成人のカルシウム摂取量が、平均482mg(中央値:438mg)と国際的に低く、時代的にも増加傾向にない現状

以上のエビデンスの現状に基づくと、

  • ポピュレーション・アプローチとして、日本人のカルシウム摂取量平均値を800mg程度迄増やすことは、日本人の健康寿命延伸に資する
  • 個人としては、1000mgを超す摂取は避ける

参考文献

  1. Wang X, et al, Dietary calcium intake and mortality risk from cardiovascular disease and all causes: a meta-analysis of prospective cohort studies. BMC Med. 2014 Sep 25:12:158.
  2. World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Diet, Nutrition, Physical Activity and Cancer: a Global Perspective. Continuous Update Project Expert Report 2018. Available at https://www.wcrf.org/research-policy/library/third-expert-report-complete-bundle/
  3. Cho E, et al. Dairy foods, calcium, and colorectal cancer: a pooled analysis of 10 cohort studies. J Natl Cancer Inst. 2004 Jul 7;96(13):1015-22.
  4. Aune D, et al. Dairy products, calcium, and prostate cancer risk: a systematic review and meta-analysis of cohort studies. Am J Clin Nutr. 2015 Jan;101(1):87-117.
  5. Ishihara J, et al. Dietary calcium, vitamin D, and the risk of colorectal cancer. Am J Clin Nutr. 2008 Dec;88(6):1576-83.
  6. Sawada N, et al. Dairy product, saturated fatty acid, and calcium intake and prostate cancer in a prospective cohort of Japanese men. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2008Apr;17(4):930-7.
  7. Larrson SC, et al. Dietary calcium intake and risk of stroke: a dose-response meta-analysis. Am J Clin Nutr. 2013 May;97(5):951-7.
  8. https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD010037.pub4/full#0
  9. Umesawa M, et al. Dietary calcium intake and risks of stroke, its subtypes, and coronary heart disease in Japanese: the JPHC Study Cohort I. Stroke. 2008 Sep;39(9):2449-56.
  10. Bolland MJ, et al. Calcium intake and risk of fracture: systematic review. BMJ. 2015;351:h4580. Published 2015 Sep 29.
  11. Nakamura K, et al. Calcium intake and the 10-year incidence of self-reported vertebral fractures in women and men: the Japan Public Health Centre-based Prospective Study. Br J Nutr. 2009;101(2):285-294.